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南アルプス 縦走 茶臼岳 光岳

南アルプス編②(9/6~9/8)

  • 9/6 畑薙大吊橋~茶臼小屋

  • 9/7 茶臼小屋~光岳~茶臼小屋

  • 9/8 茶臼小屋~聖岳~兎岳避難小屋

 9月6日 畑薙大吊橋~茶臼小屋

 

歩き始めて5日目にしてついに山。スカッと晴れ渡った空の下、吊橋を渡り土を踏みました。柔らかい土の感触、ひんやりと冷たい森の空気、湿った草木の匂い…。山を感じさせる全てが嬉しくて楽しくて、ほくそ笑みながら歩きます。

目指すは茶臼岳、がっつり登ります。なかなかの急登で汗もだらだら。南アルプス縦走11日分の食糧が両肩に重くのしかかりヘロヘロでございました。

 

しかしながらここは山!この荷物を背負っての舗装路80kmはさながら拷問でしたが、自然を全身に感じながら歩けるのなら、そんなにつらくないのです。約7時間登り続けて茶臼小屋に到着。テントを張りお散歩へ。小屋から10分ほど登ると、そこには待ちに待った山の稜線が...。

 

この瞬間の、稜線に出た瞬間の感動は忘れられません。

太平洋から歩くこと5日間。やっと目にすることができた、どこまでも続く青い稜線。北には聖岳がどっしり構え、中央アルプスもはっきりと見ることができます。頭上には何も遮るものもなく、空と一体化したかのような不思議な感覚。地球!!LOVE地球!!

 

風が冷たいので小屋に戻ると本格的なコーヒーマシンを発見。飲む。美味い。ありがとうネスカフェアンバサダー、お山の上にまでコーヒーを届けてくれて。

この日テント場には私と女性が一人。フルマラソンの大会にも出るという健脚の素敵なお方で、山トークに花が咲きました。そして就寝。

 9月7日 茶臼小屋~光岳~茶臼小屋

 

前日の夕方に降り出した雨は朝になっても止まず、あいにくのお天気。5時ごろに出発。稜線上は風も強く雨が痛い。それでも、バチバチとレインウエアに打ち付ける雨の音を聞いていると妙に心が躍り、ルンルン気分のハイキング。

 

この日は光岳へピストンです。

稜線からすぐ森林に。雲に包まれた深いシラビソ林は幻想的な雰囲気で、ところどころ現れるお花畑には華凜で小さな花々が。晴れた日の稜線歩きはもちろんですが、こんな雨の森林ウォークも最高!つまり山はいつでも最高。山!LOVE山!!

 

いつの間にか雨は止み、ゴーロの長い坂を登りきって静高平に着いたまさにそのとき!それまで辺りを厚く覆っていた雲が割れ、まぶしい太陽の光が差し込んできました。

静高平の美しい小川やトリカブトの鮮やかな紫色が日の光に輝いている。

坂を登りきったところでそんな景色に出会ったからか、なんだか「祝福」されているような気分に。ご機嫌で光岳へと登りました。

 

光岳小屋に立ち寄ると、小屋のテラスでダンディなご主人がコーヒー片手に外を眺めていました。「あ、カミコウチが見えるね」と雲の間に見える山を指差すご主人。「あ、意外と近いんですね、上高地」と私。小さくうなずき、微笑むご主人。

翌日になってようやく気付いたのですがご主人が指差して言ったのは数キロ先の「上河内岳」で、私はそれを北アルプスの玄関口「上高地」と勘違いしていたのでした。あのときのご主人の優しい微笑は、そんな私の勘違いに気付いたからだったのか。

なんてダンディな方だ。

 

すぐ目と鼻の先にあると勘違いした「上高地」に実際にたどり着いたのは、それから21日後のことでした…。光岳から見えるわけがないですね。

 

14時ごろ茶臼小屋に戻りテントでのんびりしていると、小屋のご主人から「お前日本海まで歩くんだってな。あとで声かけるから中入れよ。飯、おごってやるよ」とのお言葉が。山の人間らしいぶっきらぼうな口調でしたが、言葉や表情の端々に優しさがにじみ出ているような素敵な方でした。

小屋での食事は素晴らしいものでした。1つのテーブルを4人のスタッフさんと3人組の宿泊客と私とで囲んでの夕飯。自然が好きだという共通項を持つ者同士、あっという間に打ち解け話が弾みます。「あの花の名前は?」「あのキノコは?食べられるの?」などなど話は尽きませんでした。温かく楽しい食事を終え満腹でテントに戻り、就寝。

 9月8日 茶臼小屋~聖岳~兎岳避難小屋

 

旅の間、毎日日記を書いていたのですが、この日の書き出しはこうでした。

 

「現在19時。日記を書き始めたがこれから書くことが全てこの一日で起こったことだというのが信じられない…。」

 

この先ゴールまでの約1か月、毎日そんな思いをすることになるのですが、本当に毎日が充実した濃いものでした。美しい風景や人との出会い、全てが刺激的で驚きにあふれていて、ペンを持ち日記帳に向かうたびに「ああ今日もいい一日だった」と一人つぶやき、心地よい疲労を感じながらいつの間にか寝袋の中で眠りに落ちているのでした。

 

これ以上の幸せがあるだろうか、いや、ない。

 

茶臼小屋は東側が開けていて正面に大きな富士山を見ることができます。朝焼けに浮かぶ富士山を拝み、「旅の成功を祈っているよ」とご主人から暖かい言葉を頂いて出発。風の冷たい日だ。

上河内岳を経由して聖岳へと向かいます。上河内岳は大きくなだらかな稜線を持つ山で「包容力」があるとでもいうのか、とても優しい印象の山でした。大好きな山。聖岳までアップダウンを繰り返す。

 

東や南を向いた斜面にはお花畑も多く、特に目立つのは紫色のトリカブト。きれいだな~なんて思って歩いているとシカ除けネットを発見。

南アルプスでもシカによる食害の被害が大きいそうで、固有の貴重な植物を守るためのネットがところどころに立てられていました。

そしてシカにも「好き嫌い」があり、シカの「嫌い」な植物であるトリカブトは、それ故にネットで守られずとも食べられることなく残っていたのでした。

のん気に「きれいな紫だ~」なんて思いながらトリカブトの花を楽しんでいましたが、まさかそこからシカの増加という問題に行き当たるとは。

それにしても、人間は本当に自分勝手だ。

そもそもシカが増えたのは、天敵のオオカミがいなくなったことや人間による狩猟が行われなくなったことなどが要因のはず。大規模な開発によってオオカミの住処を奪ったのも人間なのだから、シカの増加は人間が自ら招いた事態。

それなのにシカを迷惑者扱いして花の周りにはネットを巡らしているのです。花は守るがシカは”駆除”の対象。

もちろん貴重な植物を守る必要はありますが、生命に”優劣”をつけ、「守る生命と守らない生命」の勝手な線引きをすることが、どうにも納得し難いのでした...。

 

聖岳を越えて兎岳の避難小屋に到着。最近手が加えられたようでとてもきれいで快適な小屋。しばし休憩したのち、山頂へ。

 

そこで目にしたのは360°の大展望。思わず目頭が熱くなるほどの感動...。

翌日に歩く赤石岳への稜線が美しく、ずっと先には仙丈ケ岳や甲斐駒ケ岳の姿も見えます。さらに中央アルプス、御嶽、北アルプスまで…。これから歩いていく山々の連なりを目にして、ワクワクとヤレヤレが同時にやってきました(ワクワク98%)。夕日が遠く西空に沈むのを見送り、おやすみなさい。

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