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南アルプス編④(9/11~9/12)

  • 9/11 千枚小屋~荒川岳~小河内岳避難小屋

  • 『小河内岳避難小屋での出会い。エネルギーの交換について。』

  • 9/12 小河内岳避難小屋~塩見岳~熊ノ平小屋

 9月11日 千枚小屋~荒川岳~小河内岳避難小屋

 

前日の楽しい宴の思い出に浸りながら、三伏峠を目指して朝4時ごろに出発。雲に覆われ風も強く、日の出前だったこともあり肌寒い。

千枚岳、悪沢岳、中岳と前日に登った山を戻っていきます。前日には360°の大展望を見せてくれた中岳頂上もこの日は何も見えず。昨晩千枚小屋の方から「がんばれよ」ということでいただいたパンケーキを食べてエネルギー補給。力になります。

 

荒川前岳の西側は切り立った崖でなかなかスリリング。そこから一気に標高を下げて森歩き。靄がかかる神秘的な雰囲気の中、苔むした林を進みます。凛とした空気が心地いい。

 

間もなく小河内岳に到着というところで突然の雷雨(時々あられ)に見舞われました。ちょうど小河内岳の稜線上にいた私は落雷の恐怖におびえながら早足で駆け抜け、小河内岳の避難小屋に命からがら転がり込みました。

 

するとそこには仙人のような風貌の男性が(以下Tさん)。息を切らして入り込んできた私を「いらっしゃい」と優しく迎えてくれた彼との会話は、とても刺激的で今も心に深く残っています。こんな偶然の出会いに、そして彼と出会わせてくれた雷雨に感謝しなければ。

 

そして、この日の夕焼けがすごかった。小屋に着いてしばらくすると雨は降り止んだのですが、厚い雲はそのまま残っていました。その雲と夕焼けとが織りなす光景が圧巻で、あまりの美しさにTさんと二人、小河内岳頂上に呆然と立ち尽くしたのでした。

 

日が沈むのを見送って小屋に戻り、就寝。

『小河内岳避難小屋での出会い。エネルギーの交換について。』

 

小河内岳避難小屋でのTさんとの会話の中でも特に印象的だったことについて書こうと思います。それは「エネルギーの交換」についてのお話です。彼は「物々交換」を「エネルギーの交換」と呼ぶ人でした。

 

Tさんは自ら畑を耕しほぼ自給自足の暮らしをしているとのことで、山にもお手製の梅干しや干鹿肉、干したブルーベリーにきゃらぶき等々、手作りのものをたくさん持って来ていました。そしてそれらを私にもたくさん分けてくれました。

「何かお返しせねば」と思いましたが私から差し出せるものはわずかばかりのお菓子だけ...。申し訳なく思いましたが、せめてこれだけでもと手渡そうとすると、

 

 「これは君が持っていたほうがいい。」

 「お返しはいいよ。君は今、歩くことで周りにエネルギーを与えているんだよ。」

 と、言われたのでした。

 

初めは、その言葉をよく理解することができませんでした。私はただ好きで歩いているだけですし、周りの多くの人から応援されエネルギーをもらっているのはこちらの方なのですから。それに、頂いたたくさんの食べ物へのお返しが「歩く」という行為だなんて。「モノとモノ」の交換でなくていいのだろうか...。

 

しかし次第に彼の言葉の意味が分かるようになりました。自分にも同じようなことがよくあると気付いたからです。

夢を追って音楽を続ける友人の姿に感動し励まされたり、毎日一生懸命遅くまで働く友人や家族の姿に感動して自分も頑張ろうと思えたり。周りの人の様々な姿に感動し励まされることがある。いつも、誰かの後ろ姿にエネルギーをもらっている。

それと同じように、彼も私の「歩く」という行為に、鹿肉や梅干し分のエネルギー・価値を見出してくれたのかもしれない

そうだとしたら、なんて嬉しいことだろうか。

 

誰かに感動を与えようなんて考えていなくても、「その人がその人らしく一生懸命生きている」というだけで、その後ろ姿だけで、周りの人にエネルギーを与えられる。そのことを彼は教えてくれたように思います。

つまり、人はみな「表現者」なのだと。何かを伝えようと意図せずとも、その後ろ姿がその人を「表現」しているということ。そしてその後ろ姿こそ、その人を表す「作品」なのだということ。

(※参考:宮沢賢治『マリヴロンと少女』http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/1922_17654.html )

 

そしてどうせならポジティブな表現者でありたいとも強く思いました。

自分の言葉や身振り手振り、生き方などなど、自分から発せられるものから周りの人がプラスの感情を感じ取ってくれたらどんなに幸せか。そうなるためにも、常に笑顔で優しく人に接したいものです。なかなかできないのだけれど。

 

また、このとき改めて「必ず日本海にゴールしよう」と心に誓いました。

旅の前から応援してくれる人がいて、旅の間も道行く人や小屋のスタッフさんから励ましの言葉とエネルギーをもらっているのだから、ゴールしないわけにいかない、ゴールすることが最大の恩返しだと思うようになったのです。

大げさかもしれませんが、自分一人で歩いているのではないと、心からそう感じたものでした。

 

Tさん、本当にありがとう。必ず遊びに行きます。

すべてのご縁に、彼と出会えた偶然に感謝です。一期一会の出会いを大切にしよう。

 9月12日 小河内岳避難小屋~塩見岳~熊ノ平小屋

 

この日は塩見岳を越えて熊ノ平小屋まで。雲にすっぽり包まれた朝、Tさんより一足先に小屋を出発。

厚い雲の向こうで東の空が次第に明るくなるのを感じながら、尾根を行きます。歩いていると突然東側の雲にぽっかりと穴があき、そこから朝焼けに染まる富士山が。厚い雲にあいた窓のような丸い穴に浮かぶ富士山は息をのむような美しさ。

塩見岳までは樹林帯が続きます。朝の森の冷たい空気が身体に沁みわたる。途中でドイツから来られたカップルと遭遇。海外旅行でトレッキングなんて素敵だ。

塩見岳山頂近くは岩の急坂。登りごたえのある楽しい登山道。

 

塩見岳山頂からはこれまた360°の大パノラマ。いつしか空も晴れ、この時には雲一つない青空になっていました。毎日毎日天気に恵まれています。

南には荒川三山はじめ、これまで歩いてきた山々、そして北へのびる仙塩尾根の先には間ノ岳や農鳥岳、仙丈ケ岳や甲斐駒ケ岳が。どこまでも続くその尾根を前に、心が躍ります。

歩き始めたころには遠くにうっすらと青く見える程度だった間ノ岳などの山々も、今ではその輪郭や緑の木々、白い岩がはっきりと見えるほど近くにある。なんだか不思議な気分でした。

 

塩見岳を後にし、なだらかにのびる仙塩尾根を進みます。天晴れの空の下、最高の尾根歩き。いくつかのピーク、お花畑を越えて熊ノ平小屋に到着。目の前にそびえたつ農鳥岳を拝みながらテントを設営し就寝。

 

翌朝起きるとテント表面に霜がついていました。冷え込みの厳しい夜でした。

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