
南アルプス編⑥(9/16)
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16 Sep. Matsumine Hut - Komagane City
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Gradation of the nature and the people.
9月16日 松峰小屋~駒ヶ根市街
南アルプス最終日。
のんびり歩いても昼過ぎには駒ヶ根市街に着けるだろうと、6時ごろにスタート。地蔵尾根の苔むした気持ちのいい森を楽しく下ります。が、1時間ほどで森歩き終了、そこからひたすらアスファルトの林道歩き。固いアスファルトを歩くのは脚が痛むしくたびれる。
とはいえ白樺林の間をゆく林道は小鳥のさえずりもにぎやかで、清々しいものでした。
ただ、いくら下っても集落が見えてこない。くねくね下ってやっと最初の集落が見えたのは正午前。昼過ぎには駒ヶ根か、なんて思っていた自分が甘かった。というか下調べ不足。Google mapsで駒ヶ根までの道のりを調べると、まさかの到着予定時刻19時。なんてこった…。それでも、旅の初めの80kmの舗装路歩きを思えばここからの5時間なんて大したことない!と気を取り直して歩いていきます。
駒ヶ根への道中にもいろんな出会いがありました。道路脇で休んでいると車で通りかかった方が「兄ちゃん、これさっき買ったやつだけど」と缶コーヒーをくれたり、畑を耕していたおじいちゃんが親切に道を教えてくれたり(道だけでなく、じいちゃんの昔話もたくさん聞かせてくれた)。
そのおじいちゃんに教えてもらった道をしばらく歩いていると、おじいちゃんが後ろから軽トラでやってきて、「いいか、さっきも言ったけどこの次を右だぞ」とわざわざ言いに来てくれ、さらに「その先にサークルKがある。あそこはうまい弁当が食える」と、キュートなアドバイスもくれました。
優しい人たちに導かれ、19時過ぎに駒ヶ根中心部に到着。最初に目についたビジネスホテルへ。そして念願だったお風呂に入りリフレッシュ。ホテル内のコインランドリーで南アルプス縦走中の洗濯を済ませて就寝。疲れていたはずなのにひさびさのきれいなベッドに興奮したのか、なかなか寝付くことができませんでした…。




『人と自然のグラデーション。どこに腰をすえようか。』
山を下りてからひたすら西へ、駒ヶ根市街を目指して歩いたこの日の道は非常に面白いものでした。「人と自然」、「開発と自然」の”濃淡”とでもいえばいいのでしょうか、そのあらゆる姿をたった1日で見たような気がしたのです。
まずこの日は南アルプスの松峰小屋という“開発度”が極めて低いところから始まりました。そこからてくてく下ると舗装された林道が現れ、さらに下ると最初の集落が現れ、次第に住宅が密集していきます。自販機が現れ、信号が現れ、ガソリンスタンド、コンビニ…最後に駅。というように、開発度の低い山小屋から開発度の高い駅前へと移り変わっていく、開発と自然のグラデーションを肌で感じることができたのです。
そして、「自分はこのグラデーションのどこで暮らそうか」とぼんやり考えながら歩いていました。
何もかもが過剰な都市には全く惹かれない。
自然度が高すぎるところもちょっと違う。私にとってそれは“ハレ”の場であって常にいる場所ではないような気がする...。
私はきっと里が好きなのだろう。都市と自然のちょうどいい”共存点”。
この日歩きながら見た里の風景は美しかった。
西日に照らされ金色に輝く稲穂と飛び交うトンボの透き通った羽のまぶしさ。
民家に積まれた薪の山と煙突から出る煙、その匂い。
人の瞳は優しく、「人間が自然を支配している」なんて傲慢さもない。
里は本当に美しかったのです。
都市と自然、人と自然のちょうどいいバランス。人と自然が互いを活かしあい調和した生活。人にも自然にも無理のない快適な生活。自然の恵みを頂いているという謙虚さを忘れない生活。主体的・選択的に都会的な便利さも取り入れながら、あくまでも謙虚に営む生活。
そんな、「自然と調和した謙虚かつ丁寧で快適な生活」を目指していこうと、夢見ながら歩いた、駒ヶ根までの約12時間の舗装路ウォーキングでした。
「歩く」って、ぼんやり思いをめぐらすのにすごく適したスピードのような気がしました。道端に転がっている様々な「考えの種」や「考えのきっかけ」を、適度に拾い上げながら進むことができるのでとても楽しい。